【セトリ全曲レビュー前編】Mr.Chiidren Tour 2018-19 重力と呼吸 別府公演で残したモノ①※ネタバレ注意
9年前の別府は、雨だった。
「僕たち『別府チェリーボーイ』です」と桜井さんがMCで語ってからもうそんなに経つのかと改めて驚く。
思えばあの時はビーコン周辺にダフ屋のおっさんが大量に待ち構えていて、「チケット◯万円で売ってくれんかね」とか「チケットあるよ、2枚で◯万円」とか何度も声をかけられた。法外な価格で買っている人を目の当たりにした。そりゃ、今も昔もミスチルライブはプラチナチケット、金さえ積めば諦めかけていたその日のライブに行けるというなら、いくら高くても払う人は払うだろう。しかし現在なら売る方も買う方も一発でお縄に違いない。嗚呼、古き良き(良くはないか)平成のコンサート事情よ。
そんな2009年3月以来、Mr.Children2度目の別府ビーコンプラザでのライブの日だ。
公演2日め、2018年11月24日はまさに秋晴れのライブ日和で、会場奥の山には遊園地「ラクテンチ」の観覧車が見える。
温泉街であり、観光地のイメージが強い別府。ライブ会場であるビーコンプラザのほど近くには水族館「うみたまご」や「高崎山自然動物園(いやゆるサル山)などの行楽地も多い。
そんな別府でのミスチルライブ。2009年3月の「終末のコンフィデンスソングス」ツアー以来の開催に町は大騒ぎになっていた。
地元ニュースでは「あのミスチルが別府に!」と大きく報道され、近隣のホテルは予約困難、別府駅の土産物屋は「売上UPにキタイ♪」と発注を大幅に増やしたそうだ。来るだけで地域経済に ムーブメントを起こすMr.Children、ビッグだぜ。
ところで臆病風(管理人)はこの春から大分で生活をしている。長く住んだ熊本から転勤で引っ越してきた。
ミスチルは昨年(2017年)熊本でサンクスギビングツアーファイナル、今年は大分でライブと2年連続で僕の地元でのライブを開いてくれた。
こんな幸運は滅多にない。いや幸運というより、もはやミスチルが僕を追ってくれているに違いない。
そんな脳が湧いたような妄想はさておき、9年ぶりの別府公演でミスチルの4人が残してくれたモノは何だったのか、全曲レビューとともに検証したい。
ここから先は完全ネタバレになるので閲覧にはご注意を。
会場外はのどかな雰囲気。スタジアムやドーム公演のようにグッズ購入の大行列もなく、何もかもがスムーズに進む。
ツアートラック。これだけメンバーを前面に出したデザインは珍しい。
しかしもし自分がメンバーとして、こんなトラックが走っていたら相当恥ずかしいだろうな。
指定席券だったが、今回は本人確認にあるので入場のために並ぶ。
1000人以上が並んだため最後尾は完全に公道に出ていたが、完全なる道交法違反では?
入り口。行列はスムーズに進み、15分程度で中に入れた。
館中では本人確認が2度も行われて、身元をしっかり確認された。誤魔化そうったってそうはいかないらしい。
会場内に入ると、薄暗い空間にブルーとパープルの光が漂っている。まるで『here comes my love』の世界の中に入り込み、大きな海原を泳いでいるようだ。
アリーナの中央部には奥のステージからせり出すように花道がある。ビーコンプラザはキャパが狭いので、花道はかなり長く伸びているように感じた。これなら相当後方の客でもメンバーを近くに見られるな。
実は開演の数分前にちょっとした事件が起きた。僕の数席前、アリーナ15列目あたりでスタッフに連れられて入場したカップルが座るべき席に、すでに別のカップルが座っていた。
スタッフは両者に席の確認を促すが、どちらもここが自分の席だと譲らない。そこでスタッフ自らがチケット(今回は電子チケット)を目視で確認しようとしたが、座っているカップルは「ここで間違いないから」とチケットを見せようとしない。何度お願いされても応じないのだ。この時点でかなり怪しいのだが、もし何かの手違いで同じ席番号のチケットが両者に渡されていたらと僕は想像してしまう。先着順ってワケにはいかないだろうし、じゃんけんでもするのだろうか…
すったもんだの末、やっとスタッフの求めに応じて座っているカップルも渋々チケットを確認。なんと彼らの席はアリーナではなくスタンドだったようだ。二人はかなり不満げに席を去ったが、そんな絵に描いたような逆ギレも珍しい。
ただ残念だったのは、代わって座ったカップルの男性が身長2m近くの大男だったことだ。僕の視界はギリギリ遮られずに済んだが、彼の真後ろの女性にとっては前にいきなり壁ができたようなもので、「前のほうがよかったのに!」と矛先が見えない怒りに震えたことだろう。
【セットリスト】
1.SINGLES
2.Monster
3.himawari
4.幻聴
5.HANABI
6.NOT FOUND
7.忘れ得ぬ人
8.花-Memento mori-
9.addiction
10.Dance Dance Dance
11.ハル
12.and I love you
13.しるし
14.海にて、心は裸になりたがる
15.擬態
16.Worlds end
17.皮膚呼吸
ex1.here comes my love
ex2.風と星とメビウスの輪
ex3.秋がくれた切符
ex4.Your song
1.SINGLES
ニューアルバム『重力と呼吸』のリード曲からライブはスタート。
黒のジャケット、黒のパンツに真紅のTシャツという、かつてのビジュアル系バンドのようなビビットな衣装の桜井さんは出だしからノリノリ、1番サビではマイクスタンドを投げつける永ちゃんばりのパフォーマンスを見せた。
会場にいる人たちも皆、それぞれの生活の中で何かしら問題を抱えていることだろう。それが何であろうと誰であろうと、人は今日を生きなければならない。
「we have to go」と桜井さんは、僕らを「さあ、生きよう!」と奮い立たせてくれているように歌っていた。
桜井さんは終始踊りながら歌い、オーディエンスのボルテージはあっという間にMAX、会場は一体となった。
『SINGLES』は自分の口笛すら聞かせる相手のいない男の孤独を歌った曲だが、いま、この会場の中で孤独を感じている人は一人としていないだろう。
2.Monster
2005年リリースの『I❤︎U』収録曲。桜井さんは終始艶かしい声で歌い、セクシーに踊り、サビでは「knock knock!」とオーディエンスをさらに煽る。「さあ、叫び声をあげよう」と。
僕も横の席の女性から何度もアッパーを食らわされそうになりながら(僕は身長181㎝、平均身長の女性がコブシを振り上げたあたりにちょうど顎が位置する)、遠慮がちにコブシを挙げて応戦した。
僕は幸運にも今回花見にほど近い席で、桜井さんが花道に来ると手が届きそうな程近買った。ただ僕の周りの席の人たちも同様にそうなので、桜井さんがコッチに近づくたびに周辺はザワつき、カオスと化す。
通路を挟んで僕の後方の席の全身ツアーグッズで決めた女性はいつのまにか僕のほぼ真横までせせり出て来て「カズトシ〜い!」と何度も叫ぶ自由っぷり。い、いやココはスタンディングじゃないんだけど…(苦笑)。
3.himawari
「3曲めでいきなりhimawariかよ!」イントロが流れた瞬間、僕は心の中でそう叫んだ。アルバムの主役とも言えるこの曲をこんなに早く持ってくるなんて、マジで挑戦的なライブだ。『重力と呼吸』というアルバム自体が挑戦的な作品であるし、このツアーも相当僕らを驚かせようと仕掛けてくるな。
逆境や恵まれない境遇にも負けずに生きた愛する人の強さを、暗闇に咲くひまわりに例えたこの曲を聴くと、熊本地震(当時僕は熊本に住んでいた)の被害から立ち上がろうと皆で奮闘していた頃を思い出す。家を失くした人、職場を失った人、水や食料の配給に並ぶ人などそれぞれが絶望とも言える環境の中で、多くの人が明るく笑顔で生きているその姿は、僕にとってまさに「暗闇に咲いてるひまわり」だった。
邪にただ生きているだけの僕だけど、その地を離れても決して忘れることのないその思いに胸が熱くなる。
4.幻聴
桜井さんの「まだまだ行くぞ大分!」の声に合わせてイントロが流れる。
『幻聴』は明るくて前向きでそれでいて幻想的な、ライブにピッタリな曲だ。よく「音楽に励まされる」とか「歌に勇気づけられた」などと言うけれど、それは流れる音の中から聴く側が「頑張れ!」「大丈夫だよ」とかいう幻聴を聴き取っているんだと思う。つまりその幻聴こそが音楽に込められたメッセージなのだろう。僕はメッセージを存分に受け止めながら『幻聴』に聴き入った。
ここで桜井さんのMC(記憶に基づいて書いているため正確ではない。そのエッセンスだけ受け止めてほいい)。
「この会場(別府ビーコンプラザ)で演るのは久しぶりなんだけど、その時来た人!」と挙手を煽ると結構な人が手を挙げていた。
「はじめて来た人!」何を指してはじめてなのかが不明だったが、これにも結構な数の挙手あり驚いた。ま、なんでも良いのだろう。
「先週は埼玉で演った時は16,000人、で今日は4,500人!まるでライブハウスだ!」に大歓声があがる。
「今までとは違うMr.Childrenをお見せします」
「何度も来てくれる人、はじめてMr.Childrenのライブに来てくれた人、この会場の全ての人にこの曲を送ります」と言ってた始まった曲は…
5.HANABI
上のMCに続くお馴染みのイントロに4500人分のため息が会場を埋め尽くす。いまやミスチルのスタンダードナンバーとなった『HANABI 』だ。
ヴォーカリストとしてレベルアップのためヴォイストレーニングを強化しているという桜井さん。今回もキーを下げず原曲のまま歌い上げた。
余談だが、僕のHNである「臆病風」はこの曲から頂いたものである。
「臆病風に吹かれて波風がたった世界に立っているのは、まさしく僕だ…」一年前の熊本公演でこの『HANABI』を聴きながら突然そんな妄想を抱いてしまい、自分の人生とMr.Childrenとのクロスロード、繋がりを解き明かすべく始めたのでがこのブログである。
6.NOT FOUND
まずはジェンのドラムソロ。「これがMr.Childrenの心臓部(だったかな?この辺は記憶があいまい)です!鈴木英哉!」と桜井さんが煽る。
歌い出したときには何て曲だったが思い出せないくらい久しぶりに聴いた『NOT FOUND』。『HANABI』の後でこの曲も原曲キーで歌い上げるなんて神業じゃね?日々努力を怠らないのだろう。しかし桜井さんにしろ他のメンバーにしろ、もう何もしなくても生活に困らない程の成功を収めてるのに、いまだ努力を続けられるモチベーションはどこから来るのだろうか?
僕にはそんなモチベーションはNOT FOUNDなのに。
7.忘れ得ぬ人
「こんな恋愛してみたいミスチルソング」堂々第1位の『忘れ得ぬ人』がここで登場。
死別をも想像させる別れを経てなお、忘れられない最愛の人。新しい恋に目覚めようとしても必ず彼女を思い出してしまう。もう死ぬまで彼女を思っていたい…
こんな切なすぎるストーリーの曲を最高に艶っぽい声で歌われた日にゃたまらんぜよ。歌い終わった瞬間、4500人は曲の余韻に静まり返ってしまった。
「大丈夫ですが、シーンとしてますけど… ちゃんと聴いてくれてますか?」と心配になった(笑)桜井さんのMCに会場はドッと沸く。
ここでサポートメンバーの紹介。
「キーボード、SUNNY!!」
「コーラスもしてくれてます、コーラス、SUNNY!!」
「今回はギターも弾いてくれています、実は1曲目はギターでした!ギター、SUNNY!」
と3度続けてSUNNYさんを紹介するというまさかの天丼ネタを披露する桜井さん、MCが上手になったね!
続いて桜井さんはもう一人のサポートメンバー、今回新たに加わったキーボード・世武裕子に近づく。
「今回新たな才能に出会いました!キーボード、世武裕子!セビーって呼んでます!セビー!」
「サニーと、セビー!サニーと、セビー!サニーとセビー!」2人を交互に何度も指差して遊んでいる桜井さん、MCがノリノリになったね!
そうこうしている間に花道にドラムが設置され、花道先端部ではスタッフがギターを持ってスタンバイ。お、そろそろメンバーが花道に移動か?とわくわくして花道先端に目をやると、そこになにやら幕が下りていた。何だろう…
メンバーが花道に近づき、いつもと違うフォーメーションを取る。花道に沿って一人ずつ交互に横を向き楽器を構える。
その時僕は見た!スタッフが持っているギターをもらう直前、桜井さんがズボンのベルトを締め直すのを!はじめて垣間見たスーパースターの素の仕草に僕はこのライブで1、2を争うほど興奮した。
以下MCを妙録。
「次の曲はこんな感じでやらせていただきます」
「次の曲は1996年に発表した曲」
「当時は小説家みたいにホテルに缶詰めになって曲を作っていた」
「1か月頑張ったので最後の日はご褒美に自由に過ごそうと決めていた。何をしたかはココでは話しません」
「その日の朝、草野球の試合で外野を守っていて、芝生の中から花が開こうとしていたのが見えた。次の曲はその時に下りてきた曲です」
8.花-Memento mori-
僕の人生を何度も何度も支えてくれた『花-Memento mori-』を僕の目の前で…
「ふと自分に迷うときは風を集めて空に放つよ」この歌詞を聴いて以来、僕は悩んだときは深海に潜るくらい大きく深呼吸をする。そうすればアタマもココロも軽くなり、少し楽になれることを知ったからだ。それで何かが解決するわけじゃないけど、重荷が外れる気がするのはすごくいい。
例えるなら、夜中の商店街で歌うストリートミュージシャンと酔客くらいの隔たり。ピッキングの音も聞こえるくらいの距離で歌ってくれた『花』は間違いなく僕の生涯の想い出のひとつになった。
9.addiction
久しぶりに『重力と呼吸』からの選曲。アップテンポで力強い曲だ。桜井さんは雑誌で「ライブで歌うことを意識して作った曲もある」と語っていたが、おそらくこの曲のことだろう。
「addiction」とは「中毒」「依存症」と訳される。何かに依存し、それを断つことができない人間の苦悩の叫びを表現した曲だ。でも考えてみればこれは僕たちオーディエンスのことでもある。なんたって僕ら、ミスチルを断つことなんてできやしないミスチル中毒患者=チル中の集団なのだから。
ノリノリな曲だけに、花道周辺の席は再びカオス状態となる。さっき『Monster』のとき僕の横まで来ていた全身ツアーグッズの女性、今度は僕斜め前にまで移動しようとしていたが、さすがに係員に止められていた。
10.Dance Dance Dance
『addiction』でボルテージがググっと高まり、会場はまた温度が上がる
いつの間にか田原さんが花道先端に移動し、「チャラララ♪」とライブでは聴き慣れたあのイントロを弾く。『Dance Dance Dance』だ!
これぞミスチルライブの新しい姿。田原さんのギターソロはめちゃめちゃカッコイイ。しかし田原さんは痩せてるなぁ。
1番の演奏が終わり、花道先端でのパフォーマンスは中川さんにチェンジ。若干恥ずかしそうに見えたが、中川さんのソロパフォーマンスもめちゃめちゃカッコよかった。しかし中川さんの顔は義理の弟にそっくりだなぁ。
桜井さんもテンションが下がらない。「今夜も一人 lonly play」の歌詞の時、自らのナニをナニする仕草まで披露し、女性客の悲鳴を誘っていた。なんてエロ…
決して満たされることのない現代を徹底的に揶揄したこの曲で会場中が熱気で満たされる。そんなパラドックスな空間に僕はただただ酔いしれていた。
(後編に続く)