90年代「ミスチル現象」とは何だったのか?その②『innocent world』
鼻歌で1万回、いや100万回は歌ったフレーズだ。
「こりゃとんでもない曲が現れた」
「アクエリアスイオシス」のCMから流れる爽やかすぎるサビに、僕は日本中がこの曲の釘づけになる空気を感じた。
「イオシス」商品自体は曲とは裏腹でパンチのない薄味だったため長く定着しなかったが、CMソングのほうは23年後の現在でも日本人の胸に流れ続けるスタンダードメロディとなった。
ミスチルの曲で最も売れたのは『tomorrow never knows』だが、ミスチルソングと言えば何?と問われて真っ先に浮かぶのは『innocent world』だ。イノワーはミスチルの代表曲、つまりアクエリアスイオシスが至れなかった「定番」の座にCMソングのほうがついたのだ。
僕はCMを録画してサビの15秒を何度も何度も、まさに飽きるほど聴いた。何とかフルバージョンを聴けないかとラジオをつけっぱなしにして、いつ流れかわからない曲を待った。それは合コンで「近いうちに電話するね」と言われて番号を教えた女の子からの電話を待っている心境(もちろん女の子の電話番号は教えてもらえなかった)と似ていた。
CDの発売日に大学に行くと、すでに友人数人が買って持っていた。当時はSNSもなく「俺これ好きなんだ」とアピールするのはなんとなく恥ずかしいという風潮があったが、そんなのお構いなく友人たちは飲み会にまでCDを持ってきて、この曲の良さを口角泡を飛ばしながら主張した。
他にも様々な「ミスチル現象」が僕の目の前で起こった。
夏だというのにパーカーを着る奴(僕も)、雨でもないのにフードを被る奴(僕も)が続出。
「カラオケでイノワーを歌うとモテる」という噂を聞きつけて試みるも、ラスサビの音程が高すぎてうまく歌えず、逆に冷たい目で見られてしまう奴もいた(僕も)。
いつの間にか「ミスチル」と略称で呼ばれだしたのもこの頃だ。
この頃からつい口ずさんでしまう《いつの日もこの胸に流れてるメロディ》は日本中の人の胸に流れた。
このようにして『CROSS ROAD』でスターダムに上ったMr.Childrenは『innocent word』で一気に頂点に達し、僕たちの日常の一部となった。
しかしミスチル現象はまだ終わらない。
9/1に登場したアルバム『Atomic Heart』が「頂点」のさらにもうひとつ上の世界を、僕たちに見せることになる。