90年代「ミスチル現象」とは何だったのか?その①『CROSS ROAD』
今年の「Thanksgiving 25」ツアー、ヤフオクドームであるセトリに僕は震えた。
『CROSS ROAD』から『innocent world』、そして畳みかけるように『tomorrow never knows』へと続く超豪華メドレーを披露。興奮したのは僕だけじゃない。その時の会場全体は歓声よりもどよめきが優っていた。
3曲合計のCD売上数なんと約600万枚。『CROSS ROAD』発売が1993年11月10日、『innocent world』(1994年6月1日発売)を挟んで『Tomorrow never knows』が1994年11月10日発売と、その間ちょうど1年。わずか1年間でこれほどのCDシングルのセールスを記録したバンドはMr.Children以外にはいない。また将来に渡り決して現れることはないだろう。
Mr.Childrenがブレイクから一気にスターダムにのし上がり、そのまま瞬く間にモンスターバンドへと成長したこの1年間を、人は「ミスチル現象」と呼ぶ。
僕はそこにどっぷりと嵌ってしまった世代として、その3曲(僕は「6ミリオンメドレー」と呼んでいる)を聴きながら、あの「ミスチル現象」とはいったい何だったのか?と改めて考えてみたくなった。
彼らを変え、音楽業界を変え、そして数多くのファンの人生を変えたこの1年を、3回のエントリーで振り返える。
第一回はまず『CROSS ROAD』である。
僕がまだ大学生だった1993年。
バンドブーム終焉直後の音楽業界はビーイング勢が全盛期を迎えていた。ZARD、WANDS、大黒摩季らがチャートを席巻。爽やかで耳に残るメロディ、タイアップを重視し「聞いたことのある」感の演出、曲のタイトルとサビのフレーズが同じというわかりやすさ。
それらはバブルが弾け、世紀末に向けて閉塞感が漂う世相に対し、大衆が求めていたものと合致するものだった。
そんな世相に抗うように世に出た曲が『CROSS ROAD』だった。『同窓会』(だったかな…)というドラマの主題歌に採用された。90年代当時は「ドラマの主題歌になりさえすれば売れる」というほどドラマの影響力が強い時代だったので、『CROSS ROAD』はミスチルとしてははじめて広く世に聴かれる曲となった。
「なんだこのいい曲は?」
『CROSS ROAD』は今までに聴いたことのないタイプの曲だった。
男の情けなさや弱さをストレートに打ち出した歌詞、ところどころで踏まれる韻、そしてスケールが大きいのに聴き心地のよいメロディー。
ヘンテコな内容のドラマと反比例するように、曲の評価は日に日にグイグイ上がった。
「歌っているのは『ミスターチルドレン』っていう変な名前のバンドらしい」「確かポッキーのCMソングも歌っていた」と大学での話題の中に徐々にミスチルが登場するようになった。またバンドブームの頃のトガったものとは程遠い彼らのカジュアルなスタイルも注目された。いかにも僕らの隣にいそうな雰囲気が、当時音楽をあまり聴かない若者達の共感をも生んでいた。
しばらくはCDレンタル店に行っても『CROSS ROAD』は全く借りられない状態が続いた。他のシングルや過去のアルバムもいつも貸し出し中。
友人とカラオケボックスに行けば毎回『CROSS ROAD』の奪い合いが起きた。いや、たとえ誰かに歌われたとしてもオレも歌ってやる。オレもオレも。と同じ曲が延々続くという異様な状態となった。
それらの現象は急に起きたのではなく、静かに、徐々に広がっていった。音を立てないようにちょっとずつ空気を入れて風船を膨らませるように、Mr.Childrenは静かに緩やかに日本の音楽シーンに浸透していった。
桜井さんが「100万枚売れる曲ができた!」と豪語したという『CROSS ROAD』はその宣言通り、ミスチル初のミリオンセラーとなった。
しかも、一度もオリコン週間ベスト5に入らずに到達するという史上初の快挙も加えて。
しかしこの快挙はMr.Childrenにとってはまだ序章に過ぎなかった。
翌94年6月に発売される次のシングルが、彼らを一気にモンスターバンドにまで押し上げることとなる。
その2『innocent world』編に続く